加工場に並ぶ材木と仕事場の空気が伝わる写真

仕事の前に、感謝を忘れないこと。社寺建築の親方から聞いた話

加工場を貸していただいている元社寺建築の親方から聞いた、「丁寧であること」と「感謝を忘れないこと」の話です。

一枚板を制作している加工場を、ある親方にお借りしています。

その方は、もともと社寺建築の世界で仕事をされていた方です。年齢はもう八十歳ほど。

普段から加工場で顔を合わせると、立ち話をすることがあります。昔の現場の話、木の話、仕事の話。何気ない会話の中に、長くものづくりを続けてきた人の重みのようなものがあります。

先日、その親方と話していた中で、とても心に残った言葉がありました。

「肝に銘じておきなさい」

そう言って教えてくれたのは、特別な技術の話ではありませんでした。仕事に向き合う姿勢の話でした。


まず、相手に対して丁寧であること。そして、日頃から感謝の気持ちを忘れないこと。

言葉にすると、とても当たり前のことのように聞こえます。けれど、実際に毎日の仕事の中でそれを続けるのは、簡単なことではありません。

現場が詰まっているとき。制作に追われているとき。問い合わせの対応、段取り、納期、お金のこと。目の前のことに追われるほど、感謝という感覚は後ろに下がってしまいます。

親方は、若い頃とても厳しい時代を過ごされたそうです。食べることにも苦労するような時代の中で、いろいろな仕事を重ね、最終的には社寺建築の会社を立ち上げ、一代で大きな会社を作られました。

社寺建築に携わっていたからといって、特別に宗教へ強い関心があるわけではない。本人はそう話していました。

それでも、仕事に対する心の持ちよう。人生に対する心の置き方。そういうものを、とても大切にされているように感じました。


朝でもいい。一日の終わりでもいい。

まず感謝をすること。

自分が今いる状況に。今日出会った人に。仕事をいただけることに。無事に一日を終えられたことに。

たとえ大変な状況であっても、何か一つ感謝できることを見つける。そういう心持ちでいると、不思議と良い巡り合わせが返ってくる。

そんな話をしてくださいました。

最近、本を読んだり、人の話を聞いたりしていると、同じようなことを言っている方が多いと感じます。成功した人、長く仕事を続けている人、周りに人が集まる人。言い方は違っても、根っこの部分では似たことを言っている気がします。

結局、技術だけでは仕事は続かないのだと思います。

どれだけ上手く作れるか。どれだけ早く納められるか。どれだけ良い材料を扱えるか。もちろん、それも大切です。

でも、その前に人としてどう向き合うか。相手に対して丁寧でいられるか。忙しい中でも、感謝を忘れずにいられるか。

そういう姿勢は、目には見えにくいけれど、仕事の細部に出るのだと思います。

鑿や道具が並ぶ、職人の手仕事を感じる写真

(写真)鑿や道具の手入れにも、日々の丁寧さや向き合い方が静かに表れているように感じます。

一枚板を仕上げるときも、内装の現場に入るときも、結局は同じです。

材料に向き合う。空間に向き合う。お客さまに向き合う。関わってくれる人に向き合う。

その一つ一つを雑にしないこと。

親方の言葉を聞いて、改めてそう思いました。


毎日、完璧にはできないかもしれません。忙しさに流される日もあります。思うようにいかない日もあります。

それでも、一日の終わりに一つ感謝する。朝起きたときに、今あるものに一つ感謝する。

そういう小さなことを、これからも忘れずにいたいと思います。

ものづくりは、手だけでするものではない。その人の心持ちも、どこかに表れる。

そう教えてもらったような気がします。

原 弘樹 / ichi crafters